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創憲会議編の「新憲法草案」批判 (第一回)  2007.07.18   

拓殖大学政経学部教授 高久 泰文 (たかく・やすぶみ)氏

 
<略歴>
昭和16年生まれ
昭和42年東京大学法学部卒業後参議院法制局に奉職。
参議院法制局課長、法制主幹、第三部長を経て退官、現在に至る。
主著『日本国憲法七つの欠陥の七倍の欠陥』(共栄書房)
共著『こんな憲法にいつまで我慢できますか』(明成社)

<編集部注>
昨年4月に創憲会議が『国を創る 憲法を作る−新憲法草案―』なるものを出版、世に問いましたが、今回、高久教授は件の「新憲法草案」に批判的立場から10万字を越える論文を執筆、人形町サロンに寄稿なさいました。
人形町サロンはこれを受け、以後数回に分けて高久論文を掲載することにいたします。
これが我が国における改憲論争の一助になれば幸甚に存じます。
第一回目は「新憲法草案」の中身を紹介すると共に、その総論的批判を掲載いたします。

 
  先ず、批判の対象とすべき「新憲法草案」を紹介することとする。
 
 新憲法草案の全文
 
前文

日本国民は、わが国と国際社会の平和および繁栄を念願し、この新しい憲法の制定にあたり、ここに決意を宣言する。
一、 日本国民は、悠久の歴史を通じて、豊かな伝統と独自の文化をつくり上げてきた。われらは、これを承継発展させ、自立と共生の精神に基づく友愛の気風に満ちた国づくりを進める。
一、 日本国民は、立憲主義の理念と伝統を受け継ぎ基本的人権尊重の原則に基づいて、自由で民主的な国家を築いてきた。われらは、この礎の上に、国民の福祉を増進し、活力ある公正な社会の建設に努める。
一、 日本国民は、美しい国土と豊かな自然のなかで、大自然の営みを畏れ敬い、これと共に生きる心を育んできた。われらは、これを後世に伝えるとともに、地球規模で自然との共生の確保に努める。
一、 日本国民は、古来、和の精神に基づき、異文化の摂取および他国との協和に努めてきた。われらは、平和を愛する諸国民と手を携え、国際平和の維持に積極的に寄与し、尊厳ある国づくりを進める。
一、 日本国民は、変化に富む列島の気候風土のもと、個性あふれる地域文化を心の拠り所としてきた。われらは、地域社会の自治と自立を尊重し、多様性と創造力に富む国づくりを進める。
われらは、国家と国民の名誉にかけ、この崇高な理想と目的を達成することを誓う

 
序章
(象徴天皇制、国民主権)
第一条 天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴である。
2 主権は国民に属し、国のすべての権力は国民に由来する。国民は、代表者を通じて、 またはこの憲法の定めるその他の方法を通じて、主権を行使する。
 
(人間の尊厳、基本的人権の擁護)
第二条 何人も、人間として尊重される。国民は、共生と友愛の精神に基づいて、この憲 法の定める自由および権利の擁護に努めなければならない。
 
(国際平和主義、軍隊、徴兵制の禁止)
第三条 日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 日本国は、国の独立と主権を守り、国民の生命、自由および財産を保護し、国の領土を保全し、ならびに国際社会の平和に寄与するため、軍隊を保持する。
3 軍隊の最高の指揮監督権は、内閣総理大臣に属する。
4 徴兵制は、これを設けない。
5 安全保障に関する事項は、法律でこれを定める。
 
(国旗、国歌)
第四条 日本国の国旗は、日章旗である。
2 日本国の国歌は、君が代である。
 
(領土)
第五条 日本国の領土は、日本列島およびその附属諸島嶼である。
 
第一章 天皇
(皇位の承継)
第六条 皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを承継する。
 
(天皇の権能、国事行為の委任、内閣総理大臣の助言と承認)
第七条 天皇は、この憲法第十条に定める行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。
2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
3 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣総理大臣の助言と承認を必要とし、内閣総理大臣が、その責任を負う。
 
(摂政)
第八条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行う。この場合には、前条第一項の規定を準用する。
 
(天皇の国事行為)
第九条 天皇は、国民のために、左の国事に関する行為を行う。
一 衆議院の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命すること。
二 内閣総理大臣の指名に基づいて、最高裁判所の長たる裁判官を任命すること。
三 憲法裁判所裁判官の互選に基づいて、憲法裁判所の長たる裁判官を任命すること。
四 憲法改正、法律、政令および条約を公布すること。
五 国会を召集すること。
六 第八十条に基づいて、衆議院を解散すること。
七 国会議員の選挙を公示すること。
八 国務大臣および法律の定めるその他の公務員の任免ならびに全権委任状および大使および公使の信任状を認証すること。
九 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除および復権を認証すること。
十 栄典を授与すること。
十一 批准書および法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
十二 外国の大使および公使を接受すること。
十三 儀式を行うこと。
 
(象徴としての行為)
第十条 天皇は、伝統および慣習に従い、象徴としての行為を行う。
 
第二章 権利および義務
(日本国民の要件)
第十一条 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
 
(基本的人権の享有、自由および権利の尊重、法律上の制限、濫用の禁止)
第十二条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。生命、自由および幸福追求に対する国民の権利については、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
2 この憲法が保障する自由および権利は、国もしくは公共の安全、公の秩序、公衆の健康もしくは道徳の保護、または他の者の自由および権利の保護のため、法律により、これを制限することができる。国民は、これらの自由および権利を濫用してはならず、不断の努力によってこれを保持しなければならない。
 
(外国人の権利、庇護権)
第十三条 外国人は、権利の性質上日本国民にのみ認められるものを除いて、この憲法が保障する権利を享受する。
2 何人も、迫害からの庇護を求めかつ享受する権利を有する。日本国籍を有しない者が日本国においてこの権利を享受し得る条件は、国際的な基準に配慮して、法律でこれを定める。
 
(法の下の平等)
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴わない。栄典の授与は、現にこれを有し、または将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
 
(思想および良心の自由)
第十五条 思想および良心の自由は、これを侵してはならない。
 
(信教の自由、政教分離)
第十六条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、政治に介入し、または政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式または行事に参加することを強制されない。
3 国およびその機関は、宗派的な宗教活動をしてはならない。ただし、伝統的および儀礼的宗教行為は、この限りでない。
 
(集会・結社・表現の自由・私事権・知る権利)
第十七条 集会、結社および言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
3 前二項で定める自由は、肖像権、名誉権および私事権ならびに青少年の保護育成のため、法律により、これを制限することができる。
4 情報を受け、および収集する権利は、これを保障する。
 
(政党)
第十八条 政党は、国民の政治的意思形成を主導し、国民の政治的参加の基礎的な手段となる結社である。
2 政党の結成および活動は、憲法および法令を遵守する限りにおいて、自由である。
3 政党の組織は、民主的なものでなければならない。
 
(学問の自由、大学の自治)
第十九条 学問の自由および大学の自治は、これを保障する。
 
(生命倫理の保護)
第二十条 生命の尊厳の保持、生命および身体の安全ならびに社会秩序の維持のため、国は、生命倫理の保護に努めなければならない。
 
(法定手続の保障)
第二十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命もしくは自由を奪われ、またはその他の刑罰を科せられない。
 
(逮捕に対する保障)
第二十二条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する裁判官が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
 
(抑留・拘禁に対する保障)
第二十三条 何人も、理由を直ちに告げられ、かつ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留または拘禁されない。また、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人およびその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
 
(住居侵入・捜索・押収に対する保障)
第二十四条 何人も、その住居、書類および所持品について、侵入、捜索および押収を受けることのない権利は、第二十二条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、かつ捜索する場所および押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索または押収は、権限を有する裁判官が発する各別の令状により、これを行う。
 
(拷問および残虐刑の禁止)
第二十五条 公務員による拷問および残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
 
(奴隷的拘束および苦役からの自由)
第二十六条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。また、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
 
(刑事被告人の権利)
第二十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、また、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
 
(犯罪被害者の救済)
第二十八条 重大な犯罪の被害者およびその遺族は、法律の定めるところにより、国家から救済を受けることができる。
 
(自己負罪拒否の権利、自白の証拠能力)
第二十九条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 強制、拷問もしくは脅迫による自白または不当に長く抑留もしくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、または刑罰を科せられない。
 
(遡及処罰の禁止、二重の危険の禁止)
第三十条 何人も、実行の時に適法であった行為またはすでに無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。また、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。
 
(財産権)
第三十一条 財産権は、これを保障する。
2 財産権の内容は、法律でこれを定める。
3 土地、天然資源、自然環境その他国民生活に不可欠な財産は、その有効、適切かつ公 正な利用を確保するための規制に服する。
4 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。
 
(知的財産権)
第三十二条 知的財産権の保護は、国の責務である。
 
(居住・移転および職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の自由)
第三十三条 何人も、居住、移転および職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、または国籍を離脱する自由を侵されない。
 
(裁判を受ける権利)
第三十四条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。
 
(刑事補償請求権)
第三十五条 何人も、抑留または拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
 
(請願権)
第三十六条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令または規則の制定、廃止または改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
 
(国家賠償請求権)
第三十七条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国または地方自治体に、その賠償を求めることができる。
 
(参政権)
第三十八条 公務員を選定し、およびこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し、公的にも私的にも責任を問われない。
 
(家族の保護、婚姻の自由)
第三十九条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、国はこれを保護する。
2 子を監護および養育することは、両親の権利であり義務である。国は、両親が子を監護および養育する責任を果たすために必要な援助を与える。
3 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
4 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、ならびに婚姻および家族に関するその他の事項に関しては、法律は、人間の尊厳、夫婦の本質的平等および社会の基礎としての家族の価値を尊重して、制定されなければならない。
 
(生存権)
第四十条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保険および公衆衛生の向上および増進に努めなければならない。
3 第一項の権利は、これを具体化する法律の規定に従ってのみ、裁判所にその救済を求めることができる。
 
(教育に関する権利)
第四十一条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。
3 国は、公教育の大綱を作成および実施する責任を負う。
 
(勤労の権利および義務)
第四十二条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。
2 勤労者は、人間として尊重され、その職場において適正な処遇を受ける権利を有する。
3 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
4 児童は、これを酷使してはならない。
 
(勤労者の団結権および団体行動権)
第四十三条 勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
 
(環境権)
第四十四条 何人も、良好な環境を享受する権利を有し、その保全に努める義務を負う。
2 国は、良好な環境を保全するための施策の実施に努めなければならない。
3 第一項の権利は、これを具体化する法律の規定に従ってのみ、裁判所にその救済を求めることができる。
 
(納税の義務)
第四十五条 何人も、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。
 
(遵法の義務)
第四十六条 何人も、この憲法、ならびに国および地方自治体の定める法令を遵守する義務を負う。
 
(国を守る責務)
第四十七条 すべて国民は、国の安全と独立を守る責務を負う。
 
(行政監察官)
第四十八条 本章で定める自由および権利を擁護するため、法律により、行政監察官を設置し、国会でこれを任命する。
2 行政監察官は、国会の委任を受けて、行政の活動を監督および調査し、必要な助言および勧告を行う。
3 行政監察官は、毎年、行政の活動に関する報告書を国会に提出する。

第三章 立法権
(立法権)
第四十九条 立法権は、国会に属する。
 
(両院制)
第五十条 国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。
 
(両議院の組織)
第五十一条 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
2 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。
 
(議員および選挙人の資格)
第五十二条 両議院の議員およびその選挙人の資格は、法律でこれを定める。ただし、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産または収入によって差別してはならない。
 
(衆議院議員の任期)
第五十三条 衆議院議員の任期は、四年とする。ただし、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
 
(参議院議員の任期)
第五十四条 参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。
 
(両議院議員選挙の原則、選挙に関する事項の決定)
第五十五条 衆議院議員および参議院議員は、国民の直接選挙によりこれを選出する。
2 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
 
(両院議員兼職の禁止)
第五十六条 何人も、同時に両議院の議員たることはできない。
 
(議員の歳費)
第五十七条 両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。
 
(不逮捕特権)
第五十八条 両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。
 
(免責特権)
第五十九条 両議院の議員は、議院で行った演説、討論または表決について、院外で責任を問われない。
 
(常会)
第六十条 国会の常会は、毎年一回これを召集する。
 
(臨時会)
第六十一条 内閣総理大臣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣総理大臣は、二十日以内に、その召集を決定しなければならない。
 
(合同委員会)
第六十二条 衆議院議員総選挙および参議院議員通常選挙の後に国会が召集されたときは、すみやかに両院の合同委員会を選出しなければならない。
2 合同委員会は、各議院から院内各派の議員数に比例して選出された二十人以上三十人以下の委員でこれを組織する。
3 合同委員会は、国に緊急の必要が生じ、かつ国会を召集することができない場合に、国会の権能を行使する。
4 合同委員会により採られた措置は、次の国会開会の後十日以内に、国会の同意がない場合には、その効力を失う。
5 合同委員会の委員は、議員としての任期満了後または衆議院が解散された後も、次の国会が召集されるまでの間、その職務を継続して行う。
 
(衆議院の解散、特別会、合同委員会の招集)
第六十三条 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行い、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
2 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。ただし、内閣総理大臣は、国に緊急の必要があるときは、合同委員会の集会を求めることができる。
 
(議員の資格争訟)
第六十四条 両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。ただし、議員の資格を失わせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
 
(議事議決の定足数、表決)
第六十五条 両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
2 両議院の議事は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
 
(会議の公開)
第六十六条 両議院の会議は、公開とする。ただし、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
2 両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、かつ一般に頒布しなければならない。
3 出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議院の表決は、これを会議録に記載しなければならない。
 
(議院の自律権)
第六十七条 両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
2 両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、また、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。ただし、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
 
(法律案の議決)
第六十八条 法律案は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なった議決をした法律案は、衆議院で再び可決したときは、法律となる。ただし、参議院の議決後、国会休会中の期間を除いて六十日を経過した後でなければ、衆議院で再議決を行うことができない。
3 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
4 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
 
(予算の議決)
第六十九条 予算案は、さきに衆議院に提出しなければならない。
2 予算案について、参議院で衆議院と異なった議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、または参議院が、衆議院の可決した予算案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
 
(条約の承認)
第七十条 条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。
(議院の国政調査権)
第七十一条 両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭および証言ならびに記録の提出を要求することができる。
2 出席議員の三分の一以上が国政に関する調査を要求するときは、議院は調査を行わなければならない。
 
(憲法専門委員会)
第七十二条 両議院に、法律案の憲法適合性および政令の法律適合性を審査する専門委員会を設置する。
 
(国務大臣の議院出席の権利及び義務)
第七十三条 内閣総理大臣および国務大臣は、両議院の一つに議席を有すると有しないとにかかわらず、何時でも議案について発言するために議院に出席することができる。また、答弁または説明のため出席を求められたときは、出席しなればならない。
 
(弾劾裁判所)
第七十四条 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
2 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。

第四章 執行権
(執行権)
第七十五条 執行権は、内閣総理大臣に属する。
 
(国会に対する責任)
第七十六条 内閣総理大臣は、執行権の行使について、国会に対し責任を負う。
 
(総選挙における内閣総理大臣候補者と施政基本方針の明示)
第七十七条 衆議院議員総選挙の際、政党は、内閣総理大臣の候補者および施政の基本方針を明示しなければならない。
 
(内閣総理大臣の指名)
第七十八条 内閣総理大臣は、衆議院議員の中から衆議院の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先立って、これを行う。
 
(国務大臣、内閣)
第七十九条 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。ただし、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。
3 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣および国務大臣でこれを組織する。
4 内閣総理大臣および国務大臣は、文民でなければならない。
 
(内閣不信任、衆議院解散)
第八十条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、または信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
 
(内閣総理大臣の臨時代行)
第八十一条 内閣総理大臣に事故のあるとき、または内閣総理大臣が欠けたときは、そのあらかじめ指定する国務大臣が、臨時に、内閣総理大臣の職務を代行する。
2 第八十条および前項の場合には、内閣総理大臣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行う。
 
(内閣総理大臣の職務)
第八十二条 内閣総理大臣は、国務を総理し、法律を誠実に執行し、および行政各部を指揮監督する。
2 内閣総理大臣は、この憲法の定めるもののほか、左の権限を有する。
一 憲法改正案、法律案その他の議案を国会に提出すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。ただし、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従い、公務員に関する事務を掌理すること。
五 予算案を作成して国会に提出すること。
六 法律の規定を実施するために、政令を制定すること。ただし、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除および復権を決定すること。
 
(国務大臣の職務)
第八十三条 国務大臣は、内閣総理大臣を補佐し、主任の大臣として、行政事務を分担管理する。ただし、行政事務を分担管理しない大臣の存することを妨げない。
 
(法律・政令の署名)
第八十四条 法律および政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。
 
(国務大臣の訴追)
第八十五条 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。ただし、これがため、訴追の権利は、害されない。
(諮問的国民投票)
第八十六条 特に重要な国政上の案件は、これを諮問的な国民投票に付すことができる。
2 国民投票は、内閣総理大臣の提案に基づき、国会の承認を得て、これを行う。
3 国民投票の条件および手続は、法律でこれを定める。
 
(緊急事態への対応)
第八十七条 防衛緊急事態、治安緊急事態および災害緊急事態において、内閣総理大臣および国会が行使する権限は、本条の定める原則に従い、法律でこれを定める。
2 内閣総理大臣は、この憲法および法律に基づいて、緊急事態の宣言を発し、軍隊、警察、消防その他国および地方自治体のすべての機関に対し、直接に、必要な措置を命ずることができる。
3 内閣総理大臣は、緊急事態の宣言を発した後十五日以内に、国会の承認を求めなければならない。国会両院を召集することができないときは、合同委員会に承認を求めなければならない。
4 緊急事態が宣言されている間は、衆議院を解散してはならない。
5 緊急事態において内閣総理大臣が命ずる措置は、国民の生命、自由および財産を保護するために必要な最小限度のものでなければならない。
 
第五章 司法権
(司法権、裁判官の独立)
第八十八条 すべて司法権は、最高裁判所および法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 行政機関は、終審として裁判を行うことはできない。
3 すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法および法律にのみ拘束される。
 
(最高裁判所の規則制定権)
第八十九条 最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律および司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
2 検察官は、最高裁判所の定める規則に従わなければならない。
3 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。
 
(裁判官の身分保障)
第九十条 裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。

(最高裁判所の裁判官)
第九十一条 最高裁判所は、その長たる裁判官および法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣総理大臣がこれを任命する。
2 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
3 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
 
(下級裁判所の裁判官)
第九十二条 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣でこれを任命する。ただし、法律の定める年齢に達した時には退官する。
2 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
 
(違憲審査)
第九十三条 最高裁判所および下級裁判所は、具体的な訴訟事件に適用される法令が憲法に違反している可能性があると認めたときは、手続を中止し、憲法裁判所の判断を求めなければならない。
 
(裁判の公開)
第九十四条 裁判の対審および判決は、公開法廷でこれを行う。
2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序または善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行うことができる。ただし、政治犯罪、出版に関する犯罪またはこの憲法第二章で保障する自由および権利が問題となっている事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

第六章 憲法裁判所
(憲法裁判所の裁判官)
第九十五条 憲法裁判所は、その長たる裁判官および法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成する。裁判官は、その四分の一ずつを、衆議院、参議院、内閣総理大臣および最高裁判所の長たる裁判官が、それぞれ指名する。
2 憲法裁判所の長たる裁判官は、憲法裁判所裁判官の互選による。
3 憲法裁判所の裁判官の任期は、十年とし、再任されることができない。
4 憲法裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
 
(憲法裁判所の裁判官の身分保障)
第九十六条 憲法裁判所の裁判官の身分保障については、第九十条の規定を準用する。
 
(憲法裁判所の規則制定権)
第九十七条 憲法裁判所の規則制定権については、第八十九条第一項の規定を準用する。
 
(憲法裁判所の権限)
第九十八条 憲法裁判所は、左の権限を有する。
 一 具体的訴訟事件に関し、最高裁判所または下級裁判所が要求する場合に、条約、法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを審査すること。
二 内閣総理大臣または国会のいずれかの議院の総議員の三分の二以上の申し立てにより、条約、法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを審査すること。
三 国と地方自治体の間、または地方自治体相互間の権限をめぐる争訟を裁定すること。
四 法律で定めるその他の事項。
 
(憲法裁判所の判決の効力)
第九十九条 憲法裁判所の判決は、公示の日の翌日より効力を有し、すべての公権力を拘束する。
2 憲法裁判所により憲法違反と判断された法令の条規は、一般的に無効となる。ただし、法令中、憲法違反とされなかった部分の効力は存続する。
 
第七章 財政
(財政運営の基本原則)
第百条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいてこれを行使しなければならない。
2 国は、均衡のとれた健全な財政運営に努めなければならない。
 
(課税の要件)
第百一条 あらたに租税を課し、または現行の租税を変更するには、法律または法律の定める条件によることを必要とする。
 
(国費の支出および債務負担)
第百二条 国費を支出し、または国が債務を負担するには、国会の議決に基づくことを必要とする。
 
(予算)
第百三条 内閣総理大臣は、毎会計年度の予算案を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。
2 内閣総理大臣は、予算案の作成に際して、第百六条第二項に定める参議院の勧告を尊重しなければならない。
 
(予備費)
第百四条 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣総理大臣の責任でこれを支出することができる。
2 すべての予備費の支出については、内閣総理大臣は、事後に国会の承諾を得なければならない。
 
(皇室財産)
第百五条 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の経費は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。
 
(会計検査院、決算承認)
第百六条 会計検査院は、参議院の委任に基づいて国の財務を検査する最高監査機関である。
2 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、次の年度に参議院に報告書を提出して、その承認を得なければならない。
3 参議院は、決算の審査に際して、内閣総理大臣に対する勧告を決議することができる。
4 会計検査院の組織および権限は、法律でこれを定める。
 
(財政状況の報告)
第百七条 内閣総理大臣は、国会および国民に対して、定期に、少なくとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。
 
第八章 地方自治
(地方自治の基本原則)
第百八条 地方自治体の組織および運営に関する事項は、基礎自治体による住民自治の原則に基づいて、法律でこれを定める。
 
(基礎自治体の組織)
第百九条 基礎自治体は、法律の定めるところにより、住民の直接選挙に基づく議事機関を設置する。
2 基礎自治体には、法律の定めるところにより、住民または前項の議事機関の選任に基づく首長を置く。ただし、首長選挙の方法は、基礎自治体の規模および特性に応じて、条例でこれを定める。
 
(広域行政の組織)
第百十条 府県または道州の組織には、法律の定めるところにより、住民の直接選挙に基づく議事機関としての議会および首長を置く。
 
(地方自治体の権能)
第百十一条 地方自治体は、その財産を管理し、事務を処理し、および行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
2 地方自治体は、条例により租税を課すことができる。
 
(国の専権事項)
第百十二条 国は、左の事項を処理する排他的な権限を有する。
一 国籍、出入国管理、外国人の身分および庇護権
二 外交および国際関係
三 国防
四 警察の大綱
五 海上保安
六 通貨制度
七 司法制度
八 刑法、民法、商法、労働法および訴訟法
九 知的財産権の保護
十 関税
十一 通商の規則
十二 国税
 
(特別法の住民投票)
第百十三条 特定の地方自治体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方自治体の住民投票において、その過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
 
第九章 改正
(憲法改正手続)
第百十四条 この憲法の改正は、各議院の総議員の過半数の賛成で、国会がこれを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票または国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 国会の発議において、各議院の総議員の三分の二以上の賛成があったときは、国民の承認があったものとみなされる。
3 憲法改正について前二項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、直ちにこれを公布する。
4 憲法改正の手続に関する事項は、法律でこれを定める。
 
第十章 最高法規
(憲法の最高法規性、国際法の遵守)
第百十五条 この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する条約、法律、命令および国務に関するその他の行為の全部または一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約および確立された国際条規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
 
(公務員の憲法尊重擁護義務)
第百十六条 天皇または摂政および内閣総理大臣、国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。 
 
 総論的批判
 創憲会議の「新憲法草案」の前文及び第一条から第百十六条までを、現行憲法との対比しながら概観すると、以下のような特徴が見受けられる。
 
 1)現行憲法には見られない全く新しい条文が設けられている点、2)現行憲法の条文の全面的改正である点、3)現行憲法の条文の一部分の改正である点、4)現行憲法の条文の一部分の表現を改めたにすぎず、条文全体としてはほぼ現行憲法の規定の趣旨を承継したものである点、5)現行憲法の条文と全く同じもの、つまり「引き写し」である点。
 
 以上の諸点のうち、4)及び5)が「新憲法草案」全体の圧倒的多数を占めているのである。これは何を意味するのかということであるが、これがまさに今日的課題である「憲法改正」の特異性であると言えるのである。
 
 近代憲法の制定ないしは大改正の歴史沿革を辿るならば、フランス1791年憲法、同1793年憲法、アメリカの1788年連邦憲法、さらには1889年制定の大日本帝国憲法などの例を見ても、また、近年のロシア憲法、中華人民共和国憲法の例にも明らかなように、独立による憲法の制定、革命、あるいは敗戦又は国家体制の大改革による憲法大改正又は新憲法の制定であることが一般的なのである。そうなると、今、仮に日本国憲法が「大改正」される事態を想定したときには、前述のような「改正」(これは部分的な憲法の改正ではなく、「新憲法の制定」にも匹敵するような)「憲法(大)改正」のための契機が存在するのかといえば、これが現在、皆無であることに注目すべきである。
 
 次に問題となるのは、憲法改正が喧しく叫ばれている割には何のための憲法改正なのかは必ずしも明確ではない。憲法改正を主張する一方の極には、敗戦後の占領軍からの「押しつけられた憲法」を日本国民の手で自主的な憲法に作り替えることであるとし、他方の極には、独立国としては当然に軍隊を持つべきであり、そのための憲法改正の必要性を説くものがある。この両者の間にも諸々の主張があるのであるが、これについては、以下のように考えるべきではなかろうか。
 
 現行日本国憲法は、昭和21年11月3日に公布され、6ヶ月後の昭和22年5月3日に施行されたのであるから、現在、憲法施行後60年を閲するものである。この60年の間に一度も「憲法改正」が為されたことがないのであり、このことは、この間に、我が国は革命はおろか、国家が政治的、経済的又は社会的に見て何等劇的な事態の変化を経験しなかったことに由来するわけである。つまり、憲法の大改正に至るような契機が存在しなかったからである。しかし一方では、我が国家社会の現実を直視するならば、何人にも明らかなように、60年余前の憲法制定当時と、その後の今日に至るまでの国家社会の実態は明らかに変遷を極めているのである。日本国憲法は60余年前の我が国の国家社会の実態を合理的に規律すべき最高規範として制定されたものであるから、それだけに、それが今日まで一度たりとも改正されることがなかったということは、現在の国家社会の実態に対して、有効適切、かつ合理的に対応できるものではなくなってしまっているということはだれの目にも明らかな事実である。これが今日の日本国憲法の実体なのである。われわれはこの事実を直視しなければならないのである。かくして、現行日本国憲法は、言うならば「現実乖離憲法」なのである。もっとも、この現実乖離憲法の不都合さ、弊害が必ずしも顕在化しないで済んでいることも事実であるが、それは専ら「憲法」の歪曲した解釈運用に依るところが大いに関係しているところなのである。
 
 元々、「法の解釈」には限界があるのであり、すべてを解釈でもって押し通そうとしてこれまでも相当無理な憲法解釈を駆使することでもって日本国憲法の現実乖離の弊害を糊塗としてきたと言えるのであり、そのような憲法解釈は、最早とうに限界を超えてしまっているのである。またこのような歪曲した憲法解釈が常態化するならば、憲法の「法規範としての信頼」を喪失し、最高法規としての憲法の、下位の法規範に対する「規範的統制力」を失うこととなるものである。さらに言うならば、このような憲法解釈及び運用による日本国憲法の現実乖離の弊害を湖塗している事態を長く放置することは、これによって「解釈改憲」、つまり正規の「憲法改正手続」によらないで憲法「改正」がなされたと同様の結果を招来するということとなるわけである。
 
 以上の事態を深刻に受け止める必要があると共に、今、「憲法改正」において求められるものは、これらの現実乖離した日本国憲法の諸々の条文規定を再検討して、今日の我が国の国家社会の現実に適応したものに改めるための「憲法改正」ということなのである。従って、このような憲法改正の結果として制定されるべき「改正憲法」は格別に目新しいものではなく(なぜならば、前述のように、革命や国家独立と言うような憲法改正契機があるわけではないのだから)、いわば「現実追認憲法」と称すべきものであると思われる。従って、今後目指すべき「憲法改正」とは、現行憲法(「現実乖離憲法」)を改めて「現実追認憲法」と言うべき憲法を制定することなのではなかろうか。
 
 このような見地から今回の創憲会議の「新憲法草案」を見るに、前述のように、現行憲法の条文規定をほぼ承継したものや、単なる条文の「引き写し」がその大半を占めている点に注目すべきである。そして、この点は、以下のように考えるべきではなかろうか。
 
 繰り返しになるが、新憲法の制定あるいは憲法の大改正の行われる契機となるものは、歴史的には、革命、国家の独立、又は革命とまでは至らないとしても国家体制などの大変革などであるが、このような契機が存在しない場合においても憲法改正は行われているのである。
 
  しかし、それは小規模な改正にとどまり、そのような小規模憲法改正は世界各国において随時行われている極めて普遍的な現象である。
 
ところが、我が国においては、本来、このような小規模な憲法の改正が必要であるにもかかわらず、それさえもが全く行われずに長い間、改正を必要とする事項、改正をしなければならない事項が放置されてきた末の、積もり積もって大集積した「要改正条項」を一挙にまとめて改正することのために行う「憲法大改正」であると考えられるのである。再言すれば、本来、憲法改正とは、その必要に応じてその都度なされるべきものであり、後に掲載する資料を見れば明らかなように、各国の近代憲法はその制定以来相当数の改正を経験しているものである。この点では、我が「日本国憲法」は、施行以来六十年間「無改正」という全く特異な存在なのである。従って、この「特異な憲法」の改正においては、先ずは、これまでに改正の必要がありながら改正されないままに遺棄され、放置されて来た数多くの条項を改正の対象に据えなければならないのである。
 
 従前から、このような「要改正条項」、「未改正条項」が集積すればするほど「日本国憲法」は「現実乖離現象」の度合いを増し、その行き着くところは、「憲法の規範性」の喪失、「憲法の最高法規性」及び「憲法の法統制力」の減退を招来し、かくして、「立憲主義」の崩壊に至るわけである。
 
 以上のような事態を極力回避するための「憲法一括総まとめの改正」であるということは、形式的には「憲法大改正」の外観を有するが、実質的に見れば、決して我が国の今後の在るべき姿、理想、理念、原理、原則をその内容とする「新たな規定」(仮にこれを「創設的規定」と称することができる)が設けられるというものではなく、憲法よりも進んでしまっている国家社会の実態(従ってまた、その実態を既に合理的に規律している法律以下の法規範)に対する「憲法上の根拠を与える規定」(仮にこれを「確認的規定」と称することができる)が設けられることに過ぎないということなのである。
 
 おそらくこのような「憲法改正」は世界にほとんど類例のない極めて希有な部類に属する「憲法大改正」(あくまでも「形式的な改正」という限りでの)と言うことができるものと思われる。
 
 このような見地から、本件の「新憲法改正草案」を概観するに当たって、同改正草案が我が国の実態にどれほど即応した規定内容であるのかに先ず注目すべきである。また、同草案が現行憲法の条文規定をほぼ承継したもの及び条文規定の「引き写し」がその大半を占めている点が著しいのである。もっともこのこと自体は問題ではないが、しかし、「承継」ないしは「引き写し」される憲法の規定が、既に「現実乖離した」条文規定であったり、実際に規定自体の「不都合さ」が大問題となっているものであることを看過して、従って、当然にあるべき「条文規定の改正」と言う立法的解決が図られることなく、唯安易に憲法の規定の「承継ないし引き写し」に終始しているとすれば、その点が正に非難されるべきなのである。このような観点から、次回より本新憲法草案の逐条検討を試みることとする。
 
なお、参考までに、西修駒沢大学教授作成の「各国憲法の制定年とその改正の実態」を紹介することとする。

国     名 制 定 年 改  正   の   実  態
アメリカ合衆国 1788年 1992年迄に18回、27か条の追補
ノルウェー 1814年 1995年迄に139回、256か条の改正
ベルギー 1831年 1993年大改正、96・97・98年改正
ルクセンブルグ 1868年 1999年迄に16回改正
オーストリア 1901年 1988年迄に8回改正
メキシコ 1917年 1987年迄に96回改正
オーストリア 1920年 1986年から94年迄に96か条改正
リヒテンシュタイン 1921年 1996年迄に22回改正
ラトビア 1922年 1993年復活、98年に改正
アイルランド 1937年 1997年迄に17回改正
アイスランド 1944年 1995年迄に6回改正
インドネシア 1945年 1959年復活、2000年に改正
日 本 1946年 無改正
中華民国 1947年 2000年迄に6回改正
イタリア 1947年 2000年迄に10回改正
ドイツ 1949年 2000年迄に48回改正
コスタリカ 1949年 1982年から97年迄に12回改正
インド 1949年 1995年迄に78回改正
フランス第五共和制 1958年 2000年迄に14回改正



 
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