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今、求められる参議院改革への方途  2006.05.29 
東海大学大学院政治学研究科政治学専攻博士課程後期 丹羽 文生(にわ・ふみお)

<略歴>
1979年、石川県生まれ。
国士舘大学大学院政治学研究科政治学専攻修士課程修了、
東海大学大学院政治学研究科政治学専攻博士課程後期在籍。
衆議院議員秘書等を歴任。
2003年、中国社会科学院世界歴史研究所日本歴史与文化研究中心客員研究員に招聘。
日本政治学会、憲法学会等に所属。
著書に「日本の連立政権」(共著、振学出版)等。
「月刊カレント」(潮流社)編集顧問として、レギュラーコラム「異見定見」を連載中

はじめに
各党で憲法改正に向けた動きが加速する中、参議院廃止論が浮上している。以前から、衆参両院を統合して一院制とすることを目指す超党派の議員連盟「衆参両院を一院に統合し、活力に満ちた国政を創る会」が、「一院制により迅速かつ的確に政策立案と実行を図る」ことを趣旨に、活発な活動を展開していたが、2005年夏、郵政民営化関連法案を巡り、衆議院で可決された法案を参議院が否決し、衆議院解散に導いたことで、元自民党総務会長の松野頼三が、「そもそも、参院というところは、衆院解散がかかったような、『政局』を扱うことは遠慮すべき」と述べたように、各界から参議院に向けて批判が噴出し、参議院廃止論に拍車が掛かった。
 
思い起こせば、参議院改革に関する論議は、21世紀初の国政選挙となった2001年の参議院議員選挙でも大きな争点とはならず、参議院改革を公約に掲げた二つの政党は惨敗した。 「政党の支配下にその存在意義を失った参議院を良識の府として再建する」と訴えた「第二院クラブ」は消滅。「政党に距離を置く個々の議員の見識と判断によって「理」を貫く政治の場とすることを目指す」と強調した「無所属の会」も議席を獲得することはできなかった。
 
続いて2004年の参議院議員選挙。選挙前に小泉純一郎首相自らが「衆参の施政方針演説、全く衆議院と参議院同じやるのに、開会式は参議院で一緒にやるのに、なぜ施政方針演説は一緒にできないのか」、「衆議院落選した人が参議院へ行く。そうすると、何のために参議院があるのだということにもなりかねない。選挙制度の問題もあります。ということから、一院制というものも考えていいのではないか、検討してもいいのではないか」と参議院廃止論に言及したが、結局、自民党、民主党などの主要政党の公約には、全くと言っていいほど参議院改革に関する公約は掲げられず、年金制度、自衛隊多国籍軍参加問題ばかりに注目が集まった。
 
そこで拙稿では、参議院創設時における帝国議会での審議を踏まえた上で、参議院廃止論も含めた参議院改革の方向性を考察したい。

1.参議院の存在意義と現状
参議院廃止論が浮上している背景には、その存在意義の曖昧さにある。1946年5月16日に召集された第90回帝国議会に、大日本帝国憲法改正案が提出された際、憲法担当の国務大臣である金森徳次郎は、参議院の存在意義について(1)一院の専制に対して、これを抑制する、(2)衆議院の慎重を欠く審議に対し、これを補完する、(3)與論の帰着についての判断を的確にすることができると述べた。
 
具体的に言うと、二院制を採用することによって、「一院では十分に捉えきれない民意を代表し、一院の偏向を補完することができ、第一院の陥る過ちを批判し、専制化の危険を抑制し、調整する機能を営むことができ、そして、長期の視野に立つ政策立案や、より慎重で成熟した立法作業を営むようにすることが可能である」ということである。
 
さらに、「衆議院と対等な機関となれば、一院で十分ではないか」という質問に対して金森は、「一院が他の院に反対すれば、その院は有害であるというようなことが言われていますが、その根拠というのは、結局、抑制機関たるの程度を越えて全くの対等機関になる所にあると思います。そこで、この案におきましては、参議院を一種の抑制機関である、而してこれに慎重練熟の要素を盛り込む工夫をしたならば、一院制の持っている欠点、あるいは又この憲法草案について往々人が疑うところの多数党の一時的な勢力が弊害を起こすというようなことを防止する力を持つのではなかろうか」と答えて、二院制採用の理由を述べた。
 
一院制の場合、誤った議決も、そのまま確定的となり、仮にそれを改めれば、議会の権威を損ねることになる。議会の多数決は、少数よりも常に正しいという保証はなく、多数決原理の欠点を補うところに第二院の存在目的があり、一院の犯した過誤と欠陥を修正する作用を持つ。
 
「もし第一院に一致するならば、それは無用であり、一致しないなら害悪である」と指摘したフランス革命期の政治家であるアベ・シェイエス(Abbe Sieyes)でさえ「時に同一の問題を2度でも3度でも討議するのがよいことは明らかである」とその効用を認めている。
 
しかし、現状は、衆議院議員選挙で落選した前議員が参議院で返り咲くための「救済院」とか、参議院で行われる政策論議が衆議院の繰り返しとなっていることから「衆議院のカーボンコピー」と揶揄され、独自性のない無用の長物として厳しい批判を浴びせられ、最近では、「最も不要な特殊法人」とまで言われる始末である。東京大学教授の松原隆一郎も、年間運営予算に450億円を要することなどの理由から「参議院は構造改革をしない『聖域』と化してしまっている。小泉内閣で特殊法人を見なおすというのなら、真っ先に参議院を見直すべき。税金の無駄遣いだ」と述べている。
 
さらに参議院は、衆議院が「数の府」であるのに対し、「良識の府」、「理性の府」と言われ、感情で物事を判断することなく、論理的な思考によって結論を導き出すことが期待されているが、現状は、前述の郵政民営化関連法案への対応然り、決してそうとは言い難い。
 
又、イギリスの公法学者であるジェームズ・ブライス(James,Bryce)が第二院を「知識の貯蔵庫のようなもの」と指摘し、民選議院たる第一院の知識の不足を補うべき専門的知識を有する議院としての期待もあったが、実際は、2001年から参議院議員選挙に非拘束名簿式比例代表制が導入されたこともあって、スポーツ選手からタレントまで、議員の経歴こそ多彩ではあるものの、「知識の貯蔵庫」にはほど遠いと言える。

2.緑風会が目指したもの
参議院創設当初こそ、第1回目の参議院議員選挙で当選した保守系無所属議員が、既成政党に入らずに、「緑風会」という独自の院内会派を結成し、いずれの政党にも偏らず、内閣や衆議院に対しても、その名の通り、虹の七色の真ん中の色「緑」と同じく中立の立場を堅持して、政権掌握を目的とせず、会員の自由意志を拘束せず、中正主義を貫くことをモットーに、衆議院とは異なる参議院の独自性の確保を目指した。

 緑風会の発端は、この選挙後に行われた作家の山本有三の当選祝賀会で、元首相の近衛文麿のブレーンであった後藤隆之助が「山本君は今まで、文学者として筆一本で生きてきたのだが、今度政治家になった上は、今まで通りの生き方ではいけない。政治には数が必要で、孤高では問題にならない。幸い、選挙の結果は、無所属の当選者が多い様子だから、ひとつ既成政党にあきたらぬ清新な人たちばかりを集め
、無所属クラブを作ってはどうか」との提案に始まった。そして山本は、41名の発起人を集めて緑風会結成を呼び掛け、最終的に会員93名を擁する参議院最大会派となった。
 
その結成趣旨には、「第一院の独走を防ぐためには、どうしても第二院が必要である。そのためには、第二院の議員は党派の利害に巻き込まれない、公正な人でなければならない。参議院は、衆議院と一緒になって政争をこととするようであっては、第二院としての存在価値はなくなると思う」とある。
 
しかし、社会党右派と左派の統一、自由党と日本民主党の保守合同が行われ二大政党時代に入り、政党化が進んだことで、緑風会に所属する議員の多くも自らの当選を目的に既成政党に移り解散。
 現在では、両院の会派構成はほとんど変わらず、参議院は党議拘束を受けて衆議院に追随する形となっている。

3.改革ではなく改善に終始
さて、余り広くは認識されていないものの、こうした状況に対し参議院は、これまで度々、自己改革に取り組んできたのも事実である。
 
改革の第一歩は、後に参議院議長となる河野謙三が、1971年に行われた参議院議員選挙が59.24%という低投票率だったことに衝撃を受け、「失われた、ないしは失われつつある参議院への信頼を取り戻し、参議院本来の使命を果たすために、この際、心を新たにして一層の努力と工夫を重ねなければならない」と、参議院の権威と信頼の回復を訴え、議員全員に送った書簡(「河野書簡」)に始まる。
 
河野は、1962年から9年間、3期にも渡って参議院議長を務め、「参議院のドン」として君臨していた重宗雄三の姿勢、「重宗王国」とまで称されるようになった参議院の現状を憂いていた。そして、重宗の議長4選を巡って、重宗に反発する自民党の一部と野党が手を組み河野を推し、結果、重宗は議長選挙への出馬を断念し、見事、河野が議長に就任したのであった。
 その河野がまず行ったのは党籍離脱だった。これは、所属政党内の抗争、あるいは審議における与野党間の攻防の場において、公平性、中立性を保ち議事を進めることを目的としたもので、副議長についても、事実上、議長の補佐役、助言者であることから、審議が紛糾した際に正副議長の協議によって解決策が見出されることを期待するものである。そのため河野が議長に就任したと同時に副議長となった森八三一も党籍離脱し、現在でもそれが慣例化している。
 
そして河野は早速、「参議院問題懇談会」を各界の外部の有識者によって組織し、約2ヵ月間、集中的に検討を重ね、「参議院運営の改革に関する意見書」と題する報告書を提示した。
 
ここでは「議長及び副議長の党籍離脱」の他に、選任方法についても「議長は第1会派、副議長は第2会派からの選出する」ことなどが記され、参議院改革に向けての諸案が提起された。そしてこの報告書は、後に参議院改革を検討する上での叩き台になったのであった。
 さて、河野の努力が功を奏し、以後、歴代議長にとって参議院改革に関する取り組みは、重大な任務として考えられるようになっていく。
 
1977年7月に参議院議長に就任した安井謙は、河野の「参議院問題懇談会」を発展させる形で、メンバーを議院運営委員会の理事、会派推薦議員に変え、「参議院の組織及び運営の改革に関する協議会」を発足させた。
 
その後、徳永正利、木村睦男、藤田正明、土屋義彦、長田裕二、原文兵衛、斎藤十郎、井上裕、倉田寛之、扇千景と歴代議長に下で引き継がれ、数々の参議院改革案が示された他、歴代議長の中には、これとは別に、私的諮問機関を創設し、現憲法の枠内で実現可能なものや参議院規則の改正や運用方法の改善で実現できるものとは別に、衆議院による再議決要件の緩和、参議院の首相指名権を廃止といった憲法改正を要するものを含めた抜本的改革案を提示した者を存在した。
 
そしてこれまで、本会議表決での押しボタン式投票装置の導入、常任委員会の再編成、比例代表制度による選挙制度改革など具体的に実現した例も少なくない。ただし、全体として見れば、技術的、部分的な措置を講ずるのみで、「改革というより改善」と呼ぶべき程度に終始していることも事実である。

おわりに
2005年11月、自民党は立党50年を記念して開催された党大会で、新憲法草案を発表した。起草に当たって、前首相の森喜朗を委員長に発足した新憲法起草委員会が中心となって、1年間に渡り、議論を進めたが、その中で一番、結論を見出すのに時間を要したのが参議院のあり方についてだったという。
 
確かに、過去の自民党憲法調査会における議論を見ても、衆議院議員の多くが一院制への移行を主張する一方で、参議院議員は「自殺行為」に等しいため、断固として二院制維持を訴えている。
 
いずれにしても、実際問題として、参議院を廃止するのは、現実性に乏しいと考えられるが、現段階においては、まず、日本の議会制民主主義の健全な発展のために、参議院の機能の充実と再生に努め、これまでに提案されてきた参議院改革案を徐々に実現させていくことが先決であろう。
 
しかし、それができず、存在意義が不透明な中で、単に存在するのであれば、民意に基づいて廃止することも検討すべきである。来る2007年の参議院議員選挙では、各党が明確に参議院改革に関する提言を示すことを期待したい。

主要参考文献
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   金沢工業大学人間科学総合研究所、2000年
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河野謙三、『議長一代―河野謙三回想記』、朝日新聞社、1978年
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斎藤十郎、「二院制と参議院のあり方」、『議会政治研究?45』、議会政治研究会、1998年
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佐藤立夫、『ポスト政治改革の参議院像』、高文堂出版社、1993年
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橋本雅史、「参議院改革の経過と実績」、『議会政治研究?38』、議会政治研究会、1996年
前田英昭、「参議院はなぜ必要か:参議院選挙の前に考える」、『国会月報1998年7月号』国会資料協会、1998年
前田英昭、『日本国憲法検証1945−2000資料と論点:第3巻国会と政治改革』、小学館、2000年
前田英昭、「二院制:参議院の役割と自主性」、『ジュリスト?1177』、有斐閣、2000年
 『緑風会18年史』、緑風会史編纂委員会、1971年
森田重郎、『増補・参議院:その存在意義と問題点』、ぎょうせい、1984年
森田重郎、『国会の窓辺から』、ぎょうせい、1981年
和田修一、「二院制は必要か?:参議院の存在いぎと改革の視点」、『改革者第41巻第2号』、
  政策研究フォーラム、2000年

 
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