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京都教育大学名誉教授、法学博士

土居 靖美 氏

<略歴>
大正14年生まれ。
京都大学卒、法学博士。
京都教育大学名誉教授。
現在は日本法政学会名誉理事をつとめる傍ら、若手育成に尽力している。
<編集部注>
土居博士の名物コラムも今回で10回目になりましたね。老いて益々冴えています。やはり、若い頃の訓練は大切なのでしょうね。
 国際貢献の国際的意義  2008.03.12  

 
 2001年のテロ対策特別措置法の制定によって、わが自衛隊は、米軍の行うアフガニスタンに対する軍事活動への支援策としてインド洋上において給油活動を行ってきた。このような自衛隊による行動が憲法の禁止する集団的自衛権の行使に当たるのみならず、自衛隊の海外派遣自体が憲法9条の武力行使に当たるとして批判を受けている。こうした自衛隊の活動は、2001年、テロ対策特別措置法の下でテロ防止という国際社会における共同目的達成のために、それらの活動に貢献することを目的として米軍に対して後方支援を行うものである。今回、2カ年にわたる日米間給油協定が期限切れになったため、その更新の必要から国会の議決を求めることとなり、衆参両院間で難航を重ねつつも、先般国会の議決を漸く得たことによってこれまで通りの給油活動の再開をなし得たものである。

 そこで、国際貢献という言葉が、いかなることを意味するかについて述べてみたい。1950年代前半まで、わが国は、国連の下に非軍事的な事柄について国際社会に対する援助、協力をなすことがそれらの目的であった。諸外国においても、国連の承認の下に、国際的な平和維持のための活動を行っているが、自衛隊においても、PKOへの参加並びに非戦闘的な国連への協力活動が是とされ、それらの活動を継続している。ところが、1990年初頭、国際貢献は、日米同盟に基づいて、多国籍軍とともに行う軍事協力への参加という形式をとるようになった。国内的には、こうした活動が憲法9条の戦力論並びに交戦権否認論に疑義を生じるのではないかという議論が巷に湧出したのだが、当時、政府としては、PKO並びに平和維持軍としてのPKF、さらに自衛隊の国連軍参加については戦力を行使するのではない限り、憲法上疑義を持たないという理解であった。しかし、これらの政府の見解に対し、自衛隊の海外派遣並びに武力の行使は憲法違反の疑いが濃厚であるとする考え方が強く打ち出された。他方、政府側は、侵略的武力行使以外の武力の行使は憲法9条によっても認められており、武力の行使を目的としない平和維持活動参加は憲法上疑義を挟むものではないと公言している。実際には、米国への協力を積極視する政府の見解は徐々に拡張の歩を拡げる。例えば、ペルシャ湾における海上自衛隊派遣について武力行使を目的としない機雷の除去作業は海外派兵に当たらないと述べ、あるいは、テロ防止とその根絶を期するために国際的取り組みに寄与することを目的として自衛隊が後援活動を行うことは憲法に反するものではない等の見解が出された。

 ここで、海上自衛隊によるインド洋海域におけるアメリカ、パキスタン、フランス等の艦船に対する給油活動が国連安保理の授権に基づいてなされたものではなかったが故に、果たして国連としての平和維持活動の一翼を担うものと言い得るかという議論がある。今回のこうした給油活動は、日米同盟に基づくものであって、国連安保理の要請によるものではない。このことについて野党は、このような自衛隊による給油活動は、国連安保理の承認がなければ国際法上もわが国憲法上も疑義が生じるのではないかという。このことに対し、政府並びに与党は、今回のこうした活動については、あくまでアフガニスタンにおけるテロ活動を封じるためのものであつて、決して、イラクにおける紛争処理を援助するものではない。とくに、わが国のテロ対策特別措置法による自衛隊派遣の根拠は、憲法9条の趣旨に反しない限り国際協調主義の精神に則り給油活動に参加するという立場に基づくものである。しかし、9・11事件以来、アフガニスタン紛争に見られるように、テロ撲滅を期して米国は戦闘を第二次湾岸戦争へと拡張し、しかも、イラクにおけるテロ撲滅のために巨額の戦費を投じ、かつ、人的犠牲者をも頻出した。

 テロ撲滅については、国連加盟国においても協賛の声を得られており、わが国もこうした国際情勢に対し例外なく自衛隊法の改正(PKO協力を自衛隊の本末任務とすることへの改正)等時勢に対する対処がなされたが、危険を予測しての行動であったことは言うまでもない。小泉元首相は、内閣の首長当時、次のように述べていた。

 テロ対策特別措置法による自衛隊派遣の根拠について憲法9条に反しない範囲内で、また、憲法の前文及び同98条の国際協調主義の精神に沿いわが国が実施し得る活動の範囲として実践措置を定めたものである。

 こう述べ、さらに、このことは、集団的自衛権の行使とは別であるとも付け加えた。しかし、他方で、わが国の自衛隊が安保理の承認を得ずただ、アメリカとの同盟の下においてのみ、アメリカの要請に応じてインド洋上での給油活動を行うことが国際法上、安保理の承認を得ていないという理由から国際法上違法であり、わが憲法にも反するという意見がおおかたであった1。

 アメリカは、9・11以降はとくに、テロに対して、その壊滅を期し、総力を挙げてパレスチナゲリラの本拠に当たるイラク攻撃に出たのである。わが国は、日米同盟に基づき極東の平和を維持するため、米国に対し何らかの協力が求められる場合があることは否定し得るべくもないが、米国が世界の安寧を脅かすテロ活動を鎮圧するために行動をとる場合、もしそれが国際法上自国に対する他国からの武力による侵害である場合に報復的措置として攻撃に出たとしても、それらは自衛権の行使に当たるものとして国際法上許容されるべきものとして考えられ、また、緊急事態に及んで国際社会における安寧を維持するために、破壊行為を行うもの、あるいは、急迫不正の侵害行為を行うものに対して、それらを撃滅するための武力行使は、国際法上容認されるところと考えられる。その際、わが国がこのことに対して同盟に基づき協力を行うことは、国際法上疑義を生じるものとは言い難い。何故なら、国際間におけるあらゆる紛争につき、それぞれ安保理の承認を得なければ報復的措置をとれないということであれば、国際社会において安寧を保持することはできなくなるからである。テロリストによる侵害を食い止めるためにも、大国による抑制がいかに世界の平和に貢献しているかを考える時期にある。



最上俊樹「日本国憲法・国連憲章・立法主義」法律時報76巻7号39頁参照。

<主要参考文献>
沢野義一「国際社会の貢献と平和主義」法律時報79巻8号。
前掲最上論文。



 
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